池澤 夏樹(いけざわ なつき、1945年7月7日 - )は、日本の小説家・詩人。翻訳、書評も手がける。日本芸術院会員。
文明や日本について考察を基調にした小説や随筆を発表している。翻訳は、ギリシア現代詩からアメリカ現代小説など幅広く手がけている。各地へ旅をしたことが大学時代に専攻した物理学と併せて、池澤の作品の特徴となる。詩が小説に先行していることも、文章に大きな影響を与えている。
声優の池澤春菜は娘。
北海道帯広市出身で、マチネ・ポエティクで同人の原條あき子(山下澄、1923年 - 2004年)と福永武彦の間に、疎開先の帯広で誕生した。1950年に両親は離婚して1951年に母に連れられて東京へ転居する。のちに母は再婚して池澤姓を名乗り、池澤は実父について高校時代まで知らなかった。父方の大伯父に天文学者で理学博士でもあった海軍少将(水路部員)の秋吉利雄、又従兄に立教大学名誉教授の秋吉輝雄がいる。
都立富士高校卒業後、1964年に埼玉大学理工学部物理学科に入学する。1968年中退。ハヤカワミステリの短編やテレビ台本、『リーダーズダイジェスト』の記事などを翻訳する。
ロレンス・ダレルの弟のナチュラリストであるジェラルド・ダレルが少年時代を回顧した、ギリシアを舞台にした『虫とけものと家族たち』『鳥とけものと親類たち』『風とけものと友人たち』を1974年から翻訳。これがきっかけで、1975年にギリシアに移住、3年間同地で過ごす。
『ユリイカ』の当時の編集長・三浦雅士の誘いがきっかけで、『ユリイカ』に詩を掲載。帰国後、初の詩集『塩の道』を出版する。1979年から『旅芸人の記録』(監督テオ・アンゲロプロス)の字幕を担当、これを契機にアンゲロプロスの作品の字幕を担当する。
1984年5月号『海』に長編小説「夏の朝の成層圏」を発表し、1987年中央公論新人賞を受賞した小説「スティル・ライフ」で、1988年に第98回芥川賞を受賞する。
1993年に沖縄へ移住する。2005年にフランスのフォンテヌブローへ移住する。2009年に北海道札幌へ移住する。「ぼくが生まれて育ったのは北海道である。梅雨がないことで知られるとおり、最も乾燥した土地だ。フランスを離れて日本に帰ろうかと思った時、同じ空気の中に住みたいと思って、札幌に決めた。ここの今日の湿度は六八パーセント。やっぱり乾いている。」と『週刊文春』で述べる。
小説は『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、『花を運ぶ妹』で毎日出版文化賞、『すばらしい新世界』で芸術選奨、『静かな大地』で親鸞賞などを受賞する。随筆は『母なる自然のおっぱい』で読売文学賞(随筆・紀行部門)、評論では『楽しい終末』で伊藤整文学賞(評論部門)を受賞する。2007年紫綬褒章受章する。
『むくどり通信』シリーズなどの随筆もある。2010年、北海道新聞や中日新聞、東京新聞、北陸中日新聞、西日本新聞及び中国新聞に、小説「氷山の南」を連載。
2001年9月11日アメリカでのアメリカ同時多発テロ事件の直後から『新世紀へようこそ』というメールコラムを100回にわたって発信し、その後メールコラムは『パンドラの時代』、『異国の客』へと移っている。2002年11月にはイラクを訪れ、現地の普通の人々の暮らしを伝える『イラクの小さな橋を渡って』(写真・本橋成一)を緊急出版した。
池澤の個人編集の河出書房新社の『池澤夏樹=個人編集 世界文学全集』全30巻が2007年11月より刊行された。
小説や評論が国語の教科書などで採用されることも多く、『スティル・ライフ』は2002年度の大学入試センター試験国語I・国語IIの追試験問題で出題された。過去問題集では池澤の意向で文章は省略されている。
2011年第145回をもって、1995年第114回から務めた芥川賞の選考委員を辞任。
2012年現在、谷崎潤一郎賞、読売文学賞選考委員を務める。
2014年8月1日から北海道立文学館館長に就き、10月にかつて元従軍慰安婦の偽証言を報じた北星学園大学非常勤講師植村隆の解雇に反対する「負けるな北星!の会(マケルナ会)」を結成する。「たくさんの人が一人の人を非難している。その非難に根拠がないとしたら、もっとたくさんの人が立ち上がってその人を守らなければならない。」と発言した。
2020年8月から2022年1月まで、大伯父・秋吉利雄の伝記小説『また会う日まで』を朝日新聞に連載。
2018年6月に北海道立文学館館長を辞任する。
ギリシャ、フランス、沖縄などさまざま転居し、札幌には13年ほど住んでいたが、2022年秋、長野県安曇野に転居する。北海道新聞2023年1月7日 連載「天はあおあお 野はひろびろ」より。日本経済新聞2024年1月21日朝刊文化面単発コラム・エッセイ「夢想の川を下る」冒頭に記載がある。
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